旅する映画と本のお話

旅に出たくなるような映画や本。それが毎日の私の生活を潤してくれます。
そんな店主のよもやま話・・・。



ASIAN JAPANESE

著者:小林 紀晴
出版・情報センター出版局
 昨今、自分の旅の体験を赤裸々に綴った旅日記があふれんばかりに本屋に積まれている。私も旅を始めたばかりの頃は、怠惰な私にしてみれば涙ぐましい努力で旅の最中に詳細な日記をつけ、旅から帰ると写真をひとつひとつ丁寧にファイルして、キャプションまでつけたものだ。
 あれから10年以上経ち、当初の頃に毎日感じた旅の中の感動は少しづつ薄れ、ある意味「旅に慣れた自分」がいるのは、自分でもちょっと残念である。
 「初めての旅」の思いを綴った人さまの旅日記は、正直読んでいて気恥ずかしく、特にこの本は当時思いいれが強かっただけに、手にとると妙な気分になる。それは著者の「初めての旅」の感覚が、自分自身のそれと重なり蘇るからかもしれない。

 この本が出版された1995年頃、私は都内の会社に勤めながら、帰りの満員電車に揺られながら、毎日旅行のことを考えていた。ふと立ち寄った書店で何気なく足は旅行関係のコーナーに向かい、いろんな本を物色していた。「ASIAN JAPANESE」という題名にひかれ、中をパラパラとめくっていた私は不思議な驚きに包まれていた。
 23歳で勤め先の大手新聞社を辞め、「初めての旅」に出た著者が、タイ、マレーシア、インド、ネパールなど旅先で出会った様々な日本人を被写体に、その人々が旅に出た理由、旅の中で変わった自分などをたずねながら、旅を通してそれぞれの人生を写しだすという内容なのだが、その中のネパール編で、私もそこで出会った人物が載っていたのだ。名前も顔も忘れかけた男性だったが、カトマンズの宿で一緒になり、その人に連れられて何人かで食事をしに行った、たったそれだけの関係の人だった。しかし、著者がこの人物と出会ったであろう時期と、私がこの人物と出会った時期を考えると、かなり近かったことがわかり、全く知らない「小林 紀晴」なる著者と私が、この人物を通じてニアミスしたこと(私が勝手にそう思い込んでいるだけだが)が妙に不思議に感じられ、この本に引き込まれていっったのである。

 中を読み終えてみると少しブルーになった。この本の全編を流れるのは決して明るく突き抜けるような感覚ではなく、ある種淡々とした人物描写で、登場する人々も旅にどこかほの暗いものを持ち合わせているように感じられた。極めつけはインドで出会った少年が、日本に帰国後、自殺をしてしまう部分である。著者が見て・聞いて感じた初めての旅は、「人生に迷う旅人」がほとんどだったようである。

 旅の目的は「知らない土地や文化を見て好奇心を満たしたい」、「いろんな人と出会いたい」ということが大方目的の私にとっては、この本はかなり感傷的過ぎて後味の良いものではない。しかし、自分自身のことで言えば、今現在も交流があり、たまに会ったり手紙をかわしたりするのは、ほとんど最初の方の旅で出会った人々だということに気づく時、そして旅先で起こるひとつひとつの出来事に一喜一憂していたこと、「このまま就職したくない、もっと旅を続けるためにカトマンズの雑踏に消えてしまいたい」なんて思っていた当時のことを思い出し、今でも忘れられない強い印象を残し続ける、私の「初めての旅」もまた、この著者と同じだったと感じるのだ。

 ちなみにこの著者はその後も「ASIAN JAPANESE 2」や、その他たくさんの旅本を出版し、一躍有名になったが、私はやはり彼の本の中ではこの作品が一番かなと思う。

 「初めて」は、誰の心にも一番鮮烈な印象を残すからかもしれない。


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